spoonでは 壊れてしまったジュエリーや
メンテナンスが必要なジュエリーが持ち込まれることがよくあります。
お客様の大切なジュエリーを 適切に修理したりきれいにして
使える状態にする“宝石のお医者さん”も
私たち職人のお仕事のひとつです。
今回持ち込まれたのは 大切な方から譲り受けられたというリング。
クラッシクなデザインで いかにも時を重ねていそうです。
旅行中に留まっていた中石がなくなってしまって
急遽 旅行先の宝石店でぴったり合う石をいれてもらったのだそうです。
それがこのピンクの石。
爪がひっかかるから どうにかならないかしらとのご相談でした。
どれどれ 診察してみましょう。
中石の片方の爪(上の方)が折れています。
この折れた爪の断面や 石のとがったところがひっかかりの原因です。
応急処置をされた旅行先の宝石店の方は
接着剤で石を留められたようです。
石と石座の間に接着剤が見えます。
ひっかかりをなくすためには 折れた爪を立て直して
中石を留めなおさなくてはいけません。
爪を立て直すのには リングに直接火を当てて ロウ付け(溶接)する必要があります。
このリングの場合 ロウ付けするのに問題が2つ。
1.『リングをつくるときに金ロウが使われている。』
このリングの内側には “Pm”という刻印があります。
(Pmというのは古いプラチナ製品によく入っているに刻印で
日本では1960年頃まで入れていたそうです)
プラチナの製品ですが
融点の低い金(金ロウ)でロウ付けしたようです。
写真でも金色の線が見えますが これが金ロウです。
金ロウには融点が高いものも低いものもあります。
自分でつくったものは
どれくらいの温度で溶ける金ロウを使ったかだいたい覚えているのですが
昔の職人さんがつくったものは 全然わかりません。
とても低い温度で溶ける金ロウが使われていた場合
爪をつけるときに 金色のところから取れてしまうことがあります。
うーん・・・どうしよう。
爪をたてるところ以外を断熱材で覆って
一番低い温度で溶ける金ロウを使えば 取れないだろうな。
おそらく ほぼ 大丈夫だと思うけれど
絶対ではないので
お客様に “取れてしまう可能性がある” ことをお伝えし
“万が一取れてしまったら 元のデザインに戻す”ことの了承を得ました。
2、『透明石が留まっている』
石によっては 直接火を当てると白濁してしまったり 割れてしまうものがあります。
このリングの石は ダイヤモンド。
(顕微鏡で見れば ダイヤモンドかどうか判断できますが
念の為ダイヤモンドチェッカーも使います)
ダイヤモンドは熱に強く
金ロウが溶けるくらいの温度だったら問題ありません。
問題は2つとも解決できそうです。
症状と治療法をお客様にご説明して 修理する為お預かりしました。
ようやく 手術に入ります。
まず ピンク石を石枠から外します。
接着剤がたくさん使ってありました。
接着剤がなかったら また石が取れてしまっていたかも・・・
接着剤を取りました。
元々の石より この石はほんの少し長いようです。
同じ長さだったら 折れた方の爪だけ立て直せばいいのですが
今回は両方の爪を立て直さないと 石が収まりそうにありません。
元の爪を削って そこにプラチナの棒材をロウ付けしました。
前に付けてあるところが外れることなく 無事成功しました。
少し長い石を収めるため 爪の向きを若干外に斜めにしました。
くっつけた棒材を爪の形に整えます。
ピンクの石が収まりました。
爪を倒し 形を整え 磨き仕上げます。
(接着剤はつかっていません)
爪の引っかかりもなくなりましたし
石がまた取れてしまうかもしれないという不安もなくなりました。
安心して使ってください☆
“宝石のお医者さん”の大変なところは 『判断する』ことです。
ジュエリーの不具合の原因を探り 処置の方法を考え
加工に伴うリスクを把握し リスクが少ない加工をする。
お客様の思い出がつまった大切な大切なジュエリー。
万が一にもなにかあったらいけません。
地味な加工ですが 新作をつくるときの何倍も気を使います。
ご両親のマリッジリングを家族お揃いのペンダントに加工した時もとても緊張しました。
ジュエリーは壊れたら修理し
デザインが古くなったらデザインを変えたりして
長く付き合うことができるものです。
タンスに眠っているジュエリーがあったら
ぜひ活用してあげてくださいね♪
大切なジュエリー 大切に慎重に加工します。
オオハラでした。